大学広報におけるSNS活用の重要性と現状
現代の大学受験生の情報収集行動は、従来の紙媒体やWebサイトからSNSを中心としたデジタルプラットフォームへと大きく変化しています。文部科学省の調査によると、18歳人口の減少により2040年には大学志願者数が現在の約7割まで減少すると予測されており、各大学は限られたターゲット層に対してより効果的なアプローチが求められています。
特に注目すべきは、Z世代と呼ばれる現在の高校生たちの情報収集パターンです。リクルート進学総研の調査では、大学選択において最も影響を受ける情報源の上位にSNSが位置しており、Instagram、TikTok、YouTubeなどのプラットフォームが大学広報において無視できない存在となっています。
このような背景から、従来の大学広報手法だけでは十分な志願者数を確保することが困難になってきており、SNSを活用した戦略的な広報活動が大学の生き残りを左右する重要な要素となっています。本記事では、実際にSNSを活用して志願者数の大幅な増加を実現した大学の成功事例を詳しく分析し、具体的な実践手法をお伝えします。
成功事例1：A大学のInstagram戦略で志願者数200%増加
A大学の課題と取り組み開始の背景
関東地方に位置する中規模私立大学A大学では、2019年から志願者数の減少傾向が続いており、特に文系学部での影響が深刻でした。従来の大学案内パンフレットやオープンキャンパスだけでは、高校生に大学の魅力を十分に伝えきれないという課題を抱えていました。
そこで2020年4月、広報担当チームは本格的なSNS戦略の導入を決定。特にビジュアルコンテンツに優れたInstagramを主軸とした広報活動をスタートさせました。
具体的な施策内容と運用方法
A大学が実施したInstagram戦略の具体的な内容は以下の通りです：
- 学生生活の日常を切り取ったリアルなコンテンツ投稿：授業風景、サークル活動、学食メニュー、キャンパスの四季など
- 在学生インタビュー動画：受験体験談、大学生活の本音、将来の夢などをストーリーズとリールで配信
- 教授陣の研究内容紹介：難しい学術内容を分かりやすくビジュアル化
- オンラインオープンキャンパス：ライブ配信機能を活用したリアルタイム質疑応答
- ハッシュタグ戦略：#大学受験、#キャンパスライフ、#○○大学（大学名）など関連性の高いタグを活用
成果と効果測定
これらの取り組みにより、A大学は以下の成果を達成しました：
- フォロワー数の増加：開始から1年で500人から8,500人へと17倍の増加
- エンゲージメント率の向上：平均3.2%から7.8%へと大幅改善
- 志願者数の増加：前年比200%増（特に文系学部で顕著な効果）
- オープンキャンパス参加者数：前年比150%増
特に注目すべきは、Instagram経由での大学公式サイトへの流入が全体の35%を占めるようになり、SNSが重要な導線として機能していることが明確になりました。
成功事例2：B大学のTikTok活用で若年層リーチ300%向上
TikTokを選択した戦略的理由
九州地方の国立大学B大学では、特に理系学部への女子学生の志願者数増加を目標としていました。ターゲット分析の結果、高校生女子の情報収集においてTikTokの影響力が急速に拡大していることが判明し、2021年からTikTokを中心とした広報戦略を開始しました。
コンテンツ戦略と制作体制
B大学のTikTok戦略の特徴は以下の点にあります：
- 学生主体のコンテンツ制作：広報部と学生サークルが連携し、学生目線での動画制作
- トレンドを意識した企画：人気の楽曲やダンス、チャレンジ企画を大学広報に適応
- 研究室紹介の娯楽化：堅いイメージの研究内容を面白く分かりやすく紹介
- キャンパス施設の魅力発信：最新設備や美しいキャンパスをショート動画で効果的にアピール
運用における工夫点
効果的なTikTok運用のために、B大学が特に注力した点は以下の通りです：
- 投稿タイミングの最適化：高校生のアクティブ時間帯（17:00-21:00）に集中投稿
- コメント対応の迅速化：質問や相談に対して24時間以内の返信を徹底
- 他のSNSとの連携：TikTokで話題になったコンテンツをInstagramやYouTubeでも展開
- 定期的な効果測定：週次でのパフォーマンス分析と改善施策の実施
具体的な成果と学習効果
B大学のTikTok活用により得られた成果は以下の通りです：
- フォロワー数：1年間で0から12,000人へ
- 動画総再生回数：月間平均150万回再生を達成
- 理系学部への女子志願者：前年比180%増加
- 大学認知度：ターゲット層（高校生女子）での認知度が40%向上
また、TikTok経由での大学見学申し込みが全体の25%を占めるなど、実際の行動変容にも大きな影響を与えています。
成功事例3：C大学のYouTube長期戦略で志願者の質向上
YouTube選択の背景と戦略設計
関西地方の総合大学C大学では、志願者数の増加よりも「大学とのマッチング度が高い志願者」の獲得を重視していました。そのため、詳細な情報提供が可能なYouTubeを主軸とした長期的な広報戦略を2019年から開始しました。
コンテンツの種類と制作方針
C大学のYouTube戦略では、以下のような多様なコンテンツを展開しました：
- 学部・学科紹介シリーズ：各学部の特色、カリキュラム、就職実績を詳しく解説
- 教授インタビュー：研究内容や教育方針、学生へのメッセージを収録
- 在学生座談会：学年別、学部別の学生が大学生活について本音で語る企画
- キャンパスツアー：360度カメラを使用したバーチャル見学コンテンツ
- 就職活動サポート：キャリアセンターと連携した就活対策動画
SEO対策とチャンネル最適化
YouTubeでの効果的な情報発信のため、C大学は以下のSEO対策を実施しました：
- キーワード戦略：「大学選び」「○○学部」「就職率」など検索ボリュームの大きいキーワードを意識したタイトル設定
- サムネイル最適化：クリック率向上のための視覚的に魅力的なサムネイル制作
- 動画説明文の充実：関連キーワードを自然に含めた詳細な説明文を作成
- 再生リスト活用：テーマ別の再生リストで視聴者の回遊率を向上
成果と志願者の質的変化
C大学のYouTube戦略による成果は以下の通りです：
- チャンネル登録者数：3年間で25,000人を突破
- 動画総再生時間：月間平均8,000時間を達成
- 志願者の大学理解度：入学後アンケートで「期待と現実のギャップが少ない」と回答した学生が85%
- 退学率の改善：前年比30%減少（ミスマッチの減少が要因）
特に注目すべきは、YouTube視聴者からの志願者の入学後の満足度が他の経路と比較して20%高いという結果が得られており、質の高い志願者獲得に成功しています。
SNS運用で重要な5つのポイント
1. ターゲット設定の明確化
成功している大学広報担当者に共通するのは、明確なターゲット設定です。単に「高校生」ではなく、以下の要素を具体的に定義することが重要です：
- 学年（高校1年生、2年生、3年生、既卒生）
- 興味関心分野（文系・理系・芸術系など）
- 居住地域（通学可能圏内、全国、海外など）
- 進路意識レベル（明確な目標あり、迷い中、情報収集段階など）
2. プラットフォーム別の特性理解
各SNSプラットフォームには独自の特性があり、効果的な活用のためには以下の理解が必要です：
- Instagram：ビジュアル重視、ストーリーズでの日常発信、ハッシュタグ活用
- TikTok：短時間動画、トレンド活用、若年層へのリーチ力
- YouTube：長尺コンテンツ、詳細情報提供、検索エンジン最適化
- Twitter：リアルタイム性、テキスト中心、拡散力
3. コンテンツの一貫性と多様性のバランス
効果的なSNS運用では、ブランドイメージの一貫性を保ちながら、多様なコンテンツで飽きさせないことが重要です。成功事例では以下の比率でコンテンツを配信しています：
- 学生生活・日常：40%
- 教育・研究内容：25%
- イベント・行事：20%
- 施設・環境：10%
- その他（季節ネタ、トレンドなど）：5%
4. エンゲージメント向上のための工夫
単なる情報発信ではなく、フォロワーとの双方向コミュニケーションを意識した運用が重要です：
- 質問・アンケート機能の活用：フォロワーの意見を積極的に収集
- コメント返信の迅速化：24時間以内の返信を目標に設定
- ユーザー生成コンテンツの活用：在学生や卒業生の投稿をシェア
- ライブ配信の定期実施：リアルタイムでの質疑応答セッション
5. 効果測定と改善サイクルの構築
継続的な成果向上のためには、定期的な効果測定と改善施策の実施が不可欠です：
- KPI設定：フォロワー数、エンゲージメント率、リーチ数、コンバージョン率
- 分析ツール活用：各プラットフォームの公式分析ツールやGoogle Analyticsの連携
- 競合分析：他大学の成功事例やトレンドの定期的な調査
- 改善施策の実施：月次での振り返りと次月の戦略調整
プラットフォーム別戦略の詳細ガイド
Instagram活用の具体的手法
Instagramでの大学広報を成功させるための具体的な手法をご紹介します：
投稿タイプ別の効果的な活用法：
- フィード投稿：高品質な写真と詳細なキャプションで大学の魅力を深く伝える
- ストーリーズ：日常的な学生生活や舞台裏を気軽に発信
- リール：トレンドの音楽や効果を使った短時間の魅力的なコンテンツ
- IGTV：長尺の教授インタビューや詳細な学部紹介動画
- ライブ配信：オンラインオープンキャンパスや質疑応答セッション
ハッシュタグ戦略の最適化：
効果的なハッシュタグ選定のため、以下の組み合わせを推奨します：
- 大分類タグ（5-10個）：#大学受験 #キャンパスライフ #大学選び
- 中分類タグ（10-15個）：#○○大学 #文系大学 #理系大学 #私立大学
- 小分類タグ（5-10個）：#学食グルメ #サークル活動 #研究室見学
TikTok運用のコツと注意点
TikTokでの大学広報における重要なポイント：
コンテンツ制作のポイント：
- 最初の3秒が勝負：視聴者の注意を即座に引くオープニングを意識
- トレンドの積極活用：人気の楽曲やエフェクト、チャレンジ企画への参加
- 縦型動画の最適化：スマートフォンでの視聴を前提とした構図とテキスト配置
- 字幕の効果的活用：音声なしでも内容が理解できる字幕付け
投稿タイミングの最適化：
TikTokでの効果的な投稿タイミングは以下の通りです：
- 平日：17:00-19:00、21:00-23:00
- 休日：11:00-13:00、15:00-17:00、20:00-22:00
- 特に効果的：金曜日の夜、日曜日の午後
YouTube戦略の長期的アプローチ
YouTubeでの大学広報では、長期的な視点でのチャンネル育成が重要です：
コンテンツシリーズ化のメリット：
- 視聴者の継続視聴促進：次回への期待感を醸成
- 検索エンジン最適化：関連動画として表示される可能性向上
- 制作効率の向上：テンプレート化による作業効率化
- ブランディング強化：一貫したイメージの構築
推奨シリーズ企画：
- 「○○大学生の1日」シリーズ
- 「教授に聞く！最新研究」シリーズ
- 「キャンパス探検隊」シリーズ
- 「就活成功体験談」シリーズ
効果測定とROI向上の具体的手法
KPI設定の重要性と具体例
SNS運用の成果を正確に測定するためには、適切なKPI（重要業績評価指標）の設定が不可欠です。大学広報におけるSNS運用では、以下のKPIを段階的に設定することを推奨します：
第1段階：認知度向上のKPI
- フォロワー数の月次成長率：目標5-10%
- リーチ数（投稿を見た人数）：前月比110%以上
- インプレッション数：前月比115%以上
- ハッシュタグ経由での発見数
第2段階：エンゲージメント向上のKPI
- エンゲージメント率：目標3-5%以上
- コメント数・返信率：24時間以内返信率90%以上
- シェア・保存数：投稿あたり平均50件以上
- ストーリーズ完読率：60%以上
第3段階：コンバージョンのKPI
- 公式サイトへの流入数：SNS経由20%以上
- 資料請求数：SNS経由15%以上
- オープンキャンパス申込数：SNS経由25%以上
- 最終的な志願者数：前年比110%以上
分析ツールの効果的活用方法
正確な効果測定のためには、複数の分析ツールを組み合わせた包括的な分析が重要です：
プラットフォーム公式ツール：
- Instagram Insights：フォロワーの属性、投稿のパフォーマンス分析
- TikTok Analytics：動画の視聴完了率、視聴者の行動分析
- YouTube Analytics：視聴時間、チャンネル登録者の増減、収益化状況
外部分析ツール：
- Google Analytics：SNS経由のWebサイト流入分析
- Hootsuite：複数SNSの一元管理と分析
- Sprout Social：競合分析とエンゲージメント管理
ROI計算の具体的手法
SNS運用のROI（投資収益率）を正確に算出するための計算方法をご紹介します：
投資コストの算出：
- 人件費：担当者の時給 × 運用時間
- ツール費用：分析ツール、投稿管理ツールの月額費用
- コンテンツ制作費：写真撮影、動画制作、デザイン費用
- 広告費：SNS広告出稿費用
収益効果の算出：
- 志願者増加による収入増：増加志願者数 × 受験料
- 入学者増加による収入増：増加入学者数 × 年間授業料
- 広報費削減効果：従来の広告費 – SNS運用費
ROI = （収益効果 – 投資コスト）÷ 投資コスト × 100
成功事例では、ROI 300-500%を達成している大学が多く見られます。
よくある課題と解決策
リソース不足への対処法
多くの大学広報担当者が直面する人的・時間的リソースの不足に対する効果的な解決策：
効率化のための工夫：
- コンテンツカレンダーの作成：月単位での投稿計画立案により作業効率向上
- テンプレート化：投稿フォーマットの統一による制作時間短縮
- 学生スタッフの活用：在学生による自然なコンテンツ制作
- 外部パートナーとの連携：専門業者との部分的な業務委託
予算最適化の手法：
- 無料ツールの最大活用：Canva、CapCutなどの無料制作ツール使用
- 既存素材の再活用：過去のイベント写真や動画の効果的な再編集
- クロスプラットフォーム展開：一つのコンテンツを複数SNSで活用
- 成果の高いコンテンツへの集中投資：効果測定結果に基づく予算配分
炎上リスクの回避と対応
SNS運用において避けられない炎上リスクへの予防策と対応方法：
予防策：
- 投稿前チェック体制の構築：複数人による内容確認プロセス
- ガイドライン策定：投稿内容、表現方法に関する明確な基準設定
- センシティブな話題の回避：政治、宗教、社会問題への言及は慎重に判断
- 定期的な研修実施：担当者のSNSリテラシー向上
炎上発生時の対応手順：
- 迅速な状況把握：24時間以内の問題認識と影響範囲の確認
- 関係部署との連携：広報部、法務部、経営陣との情報共有
- 適切な対応方針決定：謝罪、説明、削除などの対応方法検討
- 継続的なモニタリング：沈静化まで状況を継続監視
成果が出ない場合の改善アプローチ
SNS運用を開始したものの期待する成果が得られない場合の体系的な改善アプローチ：
問題分析のフレームワーク：
- ターゲット分析：想定ターゲットと実際のフォロワー属性の比較
- コンテンツ分析：エンゲージメント率の高い・低い投稿の傾向分析
- 競合分析：同規模大学の成功事例との比較検討
- プラットフォーム分析：各SNSでの成果の違いと最適化ポイント
改善施策の優先順位付け：
- 即効性のある施策：投稿時間、ハッシュタグ、キャプションの最適化
- 中期的な施策：コンテンツ戦略の見直し、新企画の導入
- 長期的な施策：ブランディング戦略の再構築、組織体制の見直し
まとめ：大学広報におけるSNS活用の成功法則
本記事で紹介した成功事例と実践手法を通じて、大学広報におけるSNS活用の重要性と具体的な成功法則が明確になりました。特に重要なポイントを以下にまとめます：
成功の共通要因：
- 明確なターゲット設定：詳細なペルソナ設定に基づく戦略立案
- プラットフォーム特性の理解：各SNSの特徴を活かしたコンテンツ戦略
- 継続的な運用と改善：PDCAサイクルによる継続的な最適化
- 学生参加型のコンテンツ：リアルで親しみやすい情報発信
- 適切な効果測定：データに基づく客観的な成果評価
A大学のInstagram戦略では志願者数200%増、B大学のTikTok活用では若年層リーチ300%向上、C大学のYouTube戦略では志願者の質向上という、それぞれ異なる成果を達成しました。これらの事例が示すように、各大学の特性と目標に応じたSNS戦略の選択と実行が成功の鍵となります。
今後、18歳人口の減少がさらに進む中で、SNSを活用した効果的な大学広報は必須の取り組みとなるでしょう。本記事で紹介した手法を参考に、ぜひ貴学独自のSNS戦略を構築し、志願者数向上という目標達成に向けて取り組んでください。
重要なのは、SNSは単なるツールではなく、高校生とのコミュニケーションを深める重要なプラットフォームであるという認識を持ち、継続的な改善と発展を続けることです。
